普段あまり気にしてはいませんが、日本は現在、世界で最も長寿命な国です。
厚生労働省の令和5年の調査によれば、男性の平均寿命は81.09歳、日本女性の平均寿命は87.14歳。
特に女性は平成27年ごろからずっと87歳を突破しつづけています。
また、2024年のWHOの統計によると、日本の寿命は男女平均で84.5歳で、世界第1位となりました。
平均寿命世界ランキング国別順位2024年WHO版より
https://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_life_expectancy.php
第2位はシンガポール84.5歳、第3位は韓国83.8歳。男女別統計もあり、男性のみの場合ですと日本の男性は第2位の81.7歳ですが日本の女性は87.2歳で第1位となっています。
他の国でも女性の方が男性より5歳ほど寿命が長い点は共通のようです。
なお、内閣府の平成30年(2018年)高齢社会白書によると、日本の寿命は男女ともに今後さらに延びていき、約20年後の2065年ごろになると、平均寿命は男性84.95年、女性91.35年まで延びると見込まれています。
令和2年の国勢調査によれば、平均寿命は男性国内の長寿命県ランキングとして、石川県が女性88.11歳で全国8位にランクイン。富山県の女性は87.97歳で10位、福井県の女性が87.84歳で19位とのこと。男性版ランキングでは石川県が82.00歳で6位、福井県81.98歳で7位、富山県81.74歳で15位と、いずれも全国平均より上位にランクイン。
北陸でいちばん長生き県は石川県でした。
総務省統計局ホームページはこちら(2020年度国勢調査)
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka.html
北陸3県は、日本の中でも特に「長寿命」な地域だと言えるでしょう。
ところで、日本の長寿命さと比較すると奇妙なのが、日本の木造住宅の短命さです。
下記データによれば、2023年に新築された戸建て注文住宅において、
建替えのために解体した古屋の平均築年数はなんと築38.7年でした。
アメリカは日本と同じく住宅は木造が主流なのですが解体までは平均約50年、
イギリスはレンガなど非木造が多いので、解体までは平均約77年。
たとえば35歳で新築したとして、38年目はまだ73歳。
平均余命データによれば70歳女性の場合およそ89才なので、あと20年はすまいは必要なはず。
どうして日本ではこんなに早く木造住宅を解体してしまうのでしょうか。
出展:一般社団法人木造住宅生産協会2023年度報告会資料より
https://www.judanren.or.jp/activity/proposal-activity/report03/pdf/kousatu2023.pdf
極端な例ですが、寿命が長い建物といえば日本最古の木造建築物法隆寺五重塔がありますね。
築年数は約1300年です。
歴史上何度も発生した大地震でも倒壊することもなく、解体ではなく補修で現存していられるのには4つの理由があります。
ヒノキは木材として耐久性が世界最高レベルといわれています。
ヒノキの特徴でもある香りは防蟻効果があり、シロアリを寄せ付けにくいため腐りにくい。
ヒノキで建てられた木造建築物は耐久性が高く長持ちします。
どんなに古くても表面をカンナをかければ復活してふたたび良い香を放つので長年にわたり防虫効果をもたらします。
法隆寺五重塔は中央を貫通する心柱を中心に5層の構造をしています。
各階は強固につながっているわけではなくゆるく留めている状態で、
地震の際には上下に重なり合った各階がお互いに逆方向にくねくねと横揺れし、
振動の波に乗った液体のような動きをすることで揺れに耐えることができる。
このしくみは現代の研究でもいまだ解明されていない、謎の耐震構造とのこと。
実際、過去の巨大地震発生時にも、損傷はあるものの倒壊はしていない。
また、構造に使われているヒノキは樹齢1000年越えのヒノキのみが使用されています。
ヒノキは伐採後から200年間は強度が向上しつづけ(A)、その後1000年かけて少しずつ弱くなり(B)、1000年後に伐採時と同じレベルに戻るという特性があり、古いほど強くなるのです。
つまり、補修時に新しく伐採して組み込んだヒノキと、1300年使われつづけてきた古いヒノキは、強度は同等。下記図参照。そのおかげで1300年経過しても強い耐震性を保存しつづけています。
このように耐久性に優れ、耐震性も高い法隆寺五重塔ですが、さすがに軒など外部の雨風にさらされる部分はしだいに水分を含み腐ってしまいます。
そこで、すべての木材をいったんばらし、雨風で傷んだ木材を新しく差し替えて再度組み立てるという大規模修繕を、法隆寺五重塔は300年おきくらいに実行しています。
直近では1985年の大修理になりますが、この時、解体してみて問題があったヒノキは全体の4割程度で、残りのヒノキは問題なく継続使用しているとのこと。
ヒノキのような強くて耐久性に優れた材料を使うだけでなく、構造として致命傷になるほど傷む前に計画的にメンテナンス(補修)をされてきたからこそ、耐震性を保存でき今も健在でいられるのです。
法隆寺五重塔は住居ではないので、料理や洗濯、暖房器具が建物内になく、内部に水蒸気が溜まることがありません。
また柱はむき出しで新鮮な空気に常にさらされており、周囲の湿度が下がれば木から水分が抜けて乾燥状態をいつでも取り戻すことができます。
一方、現代の住宅は料理や洗濯、ファンヒーターの使用などで、内部は湿度が高い状態が継続しやすい。また、人間そのものの呼気には大量の水分が含まれており、人が住むだけで木造の建物は湿度にやられて痛みやすくなります。冬は特に人間が窓を閉めてしまうので水蒸気の逃げ場がなく、お風呂や脱衣所などは特に床や壁の中の木部が湿気が抜けずカビやすい。料理で火器を使えば水蒸気が発生し結露を起こしやすく、窓だけでなく壁表面も冷たくじっとり濡れています。これが周辺の木質系の建材をカビさせて室内は全体的に黒ずんでいきます。
人がそこに住んでいるだけで、木は自然界では起きえないスピードで劣化していくのです。
以上の法隆寺を参考に、木造建築物を長く使うためのポイントは、
以上のような考え方を採用しているのが長期優良住宅です。
長期利用に対応する住まいとなるために、認定長期優良住宅は
「耐震性」「省エネ性」「構造躯体の劣化対策」「維持管理」という4つの性能を求めています。
4つの基準のうち、劣化対策と維持管理対策の工事のイメージはこちら。
(劣化対策)
①浴室と脱衣室の床と壁を防水仕上にする(劣化対策)
②外壁の通気構造化(劣化対策)
③外壁の軸組等※への防蟻防腐処置(ヒノキは除外)(劣化対策)
※対象部位は柱、間柱、筋交い、耐力面材、胴縁など木製下地、GLから1mの範囲まで必須
④床下の防湿措置(イラストは布基礎の場合)(劣化対策)
⑤床下空間の換気措置(通気パッキンなど採用)(劣化対策)
⑤基礎高は設計GLから高さ400以上確保(劣化対策)
⑥小屋裏の換気計算による換気量確保(劣化対策)
※軒裏有孔ボードでOK、軒の出が少ない住宅は軒zero部材など活用
⑦専用配管を基礎コンクリートに直接埋め込まない(維持管理)
長期優良住宅の日常の目視チェックは入居者様で行ってください。
5年おきなどの定期点検は建築主(お客様)の依頼で建築業者が訪問し、
外部→内部→床下→小屋裏と順番に点検していきます。
内部は室内に入る必要がありますが、点検口が荷物や家具をどかさないといけないことが多いので、
毎年というよりは何年に1度とタイミングを決めるのが一般的です。
特に10年目の点検は新築住宅にとって躯体と雨漏りの長期保証が切れるタイミングになるので
築9年と半年くらいで点検してもらうのが良いでしょう。
問題を発見した場合は瑕疵保険を使って雨漏りを補修することができます。
当サイトでは、定期点検用のチェックシート無料配布中。
ダウンロードはこちらから。
今回のコラムは、令和の日本人にとってどのような住まいがふさわしいのか、
長期優良住宅の特徴のうち「劣化対策」「維持管理対策」「メンテナンス」について解説しました。
いかがだったでしょうか。
長期優良住宅の認定戸数は毎年確実に増えており、令和5年度末時点における認定戸数は、全国の新築戸建全体の31.3%の111,262戸。今や戸建住宅の3割近くが長期優良住宅です。
ただし、北陸を除く。
福井県 認定戸数 530戸/2319戸(22.8%)
石川県 認定戸数 642戸/3374戸(19.0%)
富山県 認定戸数 578戸/2915戸(19.8%)
※令和5年度末時点の戸建住宅の集計データです
エネルギー高騰や異常気象、そして能登地震の発生。
北陸にも長期優良住宅はますます重要になっています。
これまではあまりおすすめしてこなかった工務店様も、今からは長期優良住宅を積極的におすすめしていきましょう。
北陸新築リフォーム補助金ナビでは、新築住宅を建築する事業者のみなさまの住宅の性能についての技術的なご相談や、
長期優良住宅や設計住宅性能表示制度の申請サポートを行っています。
お気軽に北陸新築サポートナビまでお問い合わせください。